中津市や宇佐市に数多く存在する貴船神社など、豊前エリアの龍神信仰を考察する中で、神道の重要な概念である「荒魂(あらみたま)」の存在が浮かび上がってきました。


今回は、岡山県倉敷市の阿智神社のウェブサイトで見つけた、素戔嗚尊(スサノオノミコト)の荒魂に関する情報を基に、水の神や祓いの神との複雑な関係性を検証します。
龍神・高龗神と闇龗神:水の神の誕生
貴船神社などで祀られる高龗神(たかおかみ)と闇龗神(くらおかみ)は、水をつかさどる龍神として知られています。その誕生は、記紀神話の重要な場面に記されています。
伊弉諾尊(いざなぎのみこと)が、妻の伊弉冉命(いざなみのみこと)を死なせた火の神・軻遇突智(かぐつち)を斬った際、その血から多くの神々が生まれました。
貴布禰総本宮 貴船神社の由緒には、以下のように記されています。
貴船神社に祀る高龗神は、古事記や日本書紀に登場します。古事記では次のように記されています。
伊奘諾尊(いざなぎのみこと)と伊弉冉命(いざなみのみこと)の夫婦神が力を合わせ、この地上にいろいろな神様をお生みになった。そして伊弉冉命が最後に火の神をお生みになったとき、その火に身を焼かれ、ついに亡くなってしまわれた。伊奘諾尊は「ただこの一人の子のために、わが愛妻を犠牲にしてしまった…」と恨み言を言われた。歎き悲しみ涙した伊奘諾尊。やがて憎み、腰に下げていた「十握剣(とつかのつるぎ)」を抜き、火の神を断ち切ってしまった。剣の刃から滴る血、鍔から滴る血、剣先から滴る血、剣の柄から滴る血、各々が神となった。(中略)剣の柄に溜まり、指の間から漏れ流れ滴る血がそそいで神となった。名付けて「闇龗(くらおかみ)」という。
この水の龍神は、「荒ぶる火を鎮める」ために誕生したとされ、降雨・止雨を司り、水源の神として信仰されています。貴船神社の伝承では、高龗神と闇龗神は「呼び名は違っても同じ神なり」とされ、水の力、龍神の力が持つ二つの側面を示唆しています。
阿智神社「荒神社」と素戔嗚尊の荒魂
水の神の謎を考察する中で、倉敷市の阿智神社のウェブサイトに掲載されていた摂末社の記述に、特に重要なヒントが見つかりました。
阿智神社の摂社である荒神社の御祭神に関する記述です。
荒神社(こうじんじゃ)
素戔嗚尊(すさのをのみこと)
宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)
高龗神(たかおかみのかみ)
闇龗神(くらおかみのかみ)
素戔嗚尊の荒魂をお祀りし治水豊饒の神としてまた厄除や病気平癒のご神徳ある神として崇められています。相殿の神は明治43年に近郷より合祀された穀物と水の御祭神です。
阿智神社ホームページから引用
この記述の最大の注目点は、素戔嗚尊の「荒魂」を祀る社に、龍神である高龗神・闇龗神が合祀されている点です。
素戔嗚尊と荒魂の役割
荒魂(あらみたま): 神道の概念では、神には和魂(にぎみたま)と荒魂の二つの側面があるとされます。荒魂は、神の荒々しい、あるいは力強く活動的な側面を指し、祭祀においては主に厄除けや病気平癒といった、強い力を必要とする神徳として現れます。
素攄嗚尊: 素攄嗚尊自体が、高天原で乱暴を働き追放された、荒々しい神として描かれますが、同時に疫病を鎮める神(牛頭天王と習合)、治水豊穣の神としての側面も持っています。
阿智神社の由緒が示すように、素戔嗚尊の荒魂は、治水豊饒、厄除、病気平癒のご神徳を持つとされています。
この荒魂の社に、水の龍神(高龗神・闇龗神)が合祀されているのは、水の力と荒ぶる神の力が、災厄を祓い、豊穣をもたらすという共通の機能で結びついていたことを示唆しています。
「荒魂」が示す古代信仰の構造
素戔嗚尊の荒魂がどの神を指すのか(特定の別の神か、あるいはスサノオ自身の活動的な側面か)は不明ですが、この例は以下の構造を私たちに示しています。
天照大神の荒魂: 瀬織津姫(水の女神、祓いの神とされる)
素戔嗚尊の荒魂: 龍神(水の神、厄除の神)と機能的に一体化
瀬織津姫が天照大神の荒魂(女神)と有力視され、素戔嗚尊の荒魂が龍神(水の神)と結びついていることは、古代の信仰が、男神と女神の対、そして火と水、破壊と再生といった陰陽の構造を、「荒魂」という概念を通じて表現していた可能性を示唆しているように思えたのです。
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