豊前市に移住してから国東半島、特に豊後高田市エリアは車で約1時間圏内で行ける場所が多く、よく訪れていました。
天念寺もそうでした。
昨年末、久しぶりに訪れた天念寺は、国東半島で平安時代に栄えた寺院群「六郷満山」を構成する寺院のひとつ。
その天念寺の中で、興味深いものを見つけました。
六郷満山（ろくごうまんざん）・天念寺とは
天念寺は「六郷満山」と呼ばれる寺院群を構成するうちの一つの寺院です。
「六郷満山」とは、国東半島の中央に位置する両子山を中心とした山稜の間に開かれた、六つの郷（来縄・田染・伊美・国東・武蔵・安岐）に点在する寺院群の総称になります。
「奈良時代、宇佐神宮の御祭神・八幡大神の生まれ変わりとされる仁聞（にんもん）菩薩が半島各地に28寺院を開基したことにより、古来からあった山岳信仰や天台系修験、浄土思想などと融合した神仏習合の六郷満山文化が開花」したと、国東市公式観光サイトでも述べられています。
そんな六郷満山は学問修行の場だったそうです。
後述する無動寺の公式Webサイトによれば
六郷満山の寺院は、学問修行の場でした。それは立地と役割により三つに大別されています。まず、宇佐八幡宮に近い 八ヵ寺を本山本寺とし、学僧養成と統率的な職務を担当していました。次に、半島中部に位置する十ヵ寺を中山本寺とし、山岳修練の行を実践する僧が集い、各種記録を行う職務を持つ寺。そして半島周辺部にある十の寺を末山本寺とし、主に一般の人々と接しながら修行することを旨としていました。
立地と役割による分類。
天念寺は中山の筆頭である「中山本寺」のひとつだったようです。
「山岳修練の行を実践する僧が集い、各種記録を行う職務を持つ寺」だったという天念寺エリアの背後には、「天念寺耶馬」と呼ばれる岩山があります。そこが修行の場だったようです。
写真の左上に見える、アーチ上の物体は尾根にかけられた「無明橋」と呼ばれる石の橋です。
橋の上から北側を向くと、無動寺耶馬が見えるそうですが、以前、歴史を調査している方に「渡ったことがあります。ものすごく怖かったです」と聞きました。
それは間違いなくそうでしょうね。
天念寺境内には講堂・身濯神社・川中不動など
修行の場である天念寺へ行って驚いたのは「天念寺」といっても「寺院」だけでなく、寺院や神社、それに川の中の磨崖仏である「川中不動」など、広いエリアが含まれていたことです。
天念寺の門前の長岩屋川の水中につくられた川中不動は、暴れ川だったという長岩屋川を鎮めるために彫られたと伝えられています。
昭和16年（1941年）三畑ダムの決壊による長岩屋川の氾濫で、天念寺の広いエリアが流されてしまったそうですが、だから天念寺の看板があった建物が、やけに新しかったのかと納得しました。
ダムの決壊による川の氾濫から逃れられたのは、ほかより高い場所に建てられていた講堂と身濯神社。
寺と神社が並ぶのは国東半島らしい神仏習合の原風景のようでした。
身濯神社の奥で見つけた興味深いもの
鳥居をくぐると、身濯神社の拝殿、そして右側から回ると奥の本殿が見えました。
何度か訪れていた天念寺でしたが、奥に行くのは初めて。
そこでタイトルの興味深いものを見つけました。
岩にめりこむように建っていた朱塗りの建物、身濯神社の本殿。
本殿に描かれていたのは海の波を表す古い紋様「青海波」に目を引かれました。
今まで目にした朱塗りの建物にはこんな模様が描かれていなかったように思います。
天念寺がある場所が内陸部で海の近くではないことも、違和感を感じました。
山なのに海。
ここしばらく自分で調べている「右三つ巴紋」の謎に関わるキーワードの一つが「海」でしたので。
身濯神社についての看板は、こちらの記事によれば以下のように書かれていたようです。（写真は他の看板）
身濯神社
天念寺の講堂と本堂に挟まれた場所にある身濯神社は、明治の神仏分離以前は六所権現とよばれていた。八幡神と関わりの深い神々が祀られており、長岩屋の鎮守社として信仰されている。
看板より引用
かつて「六所権現」と呼ばれ、八幡神と関わりの深い神々が祀られていたといいますが、天念寺の身濯神社の御祭神とはどんな神なのか、調べてみたが見当たりませんでした。
天念寺耶馬の北側に別の寺院の「身濯神社」がある
天念寺の身濯神社の御祭神は分からなくても、他の場所の身濯神社はどうなのでしょう。
天念寺耶馬（岩山）の北側に続く無動寺耶馬、その麓の無動寺と対となる神社が「身濯神社」です。
天念寺耶馬の北側にある無動寺は、天念寺と同じく中山本寺の一つで、「修行・祈祷の道場、満山の記録所」として栄えていたそうです。
無動寺の身濯神社で御祭神を確認
無動寺には一度行ったことがあります。
寺の奥にある大きな岩山に圧倒されました。
あれが無動寺耶馬で、天念寺耶馬の先にあったのですね。
無動寺も神仏習合の名残がそのままに、鳥居とお寺が仲良く並んでいました。
鳥居をくぐってその先の階段を登っていくと、身濯神社が建っています。
この無動寺の身濯神社の由緒書きによれば、御祭神は伊弉諾尊(イザナギノミコト)・大直日神（オオナオビノカミ）・八十猛津日命・表筒男之命（ウワツツノオ）・中筒男之命（ナカツツノオ）・底筒男之命（ソコツツノオ）。
「身濯神社」の「身濯」。
「身濯」は「みそそぎ」と読む。
「濯ぐ」とは「水で汚れを洗い落とす」という意味がある。
六所神社の御祭神のうち、その意味のうち汚れ（穢れ）に関する神といえば、御祭神すべてが穢れには関係しています。
これだけでは確定が難しいですね。
まるで誰かが何かを隠し、誰かが何かを伝えようとしているかのように、ヒントのような情報が点在します。
山なのに海。
実は豊後高田市や周辺には他にもそんな謎が残っています。
小さな疑問が次から次へと出てきますが、その謎を追ってみたいと思います。
追記：天念寺の身濯神社（六所権現）には八大龍王が祀られていました
後日、豊後高田市の学芸員さんとお話ができて、天念寺の身濯神社（六所権現）には八大龍王が祀られていることを教えていただきました。詳細は記事へ。↓