日本の夏の風物詩として知られる祇園祭。
その起源は、疫病退散を願う祭りとして広く認識されています。
しかし、近年では、その背景に平安時代の大地震や火山の噴火といった「大地の動乱」が深く関わっていたという見方が注目されています。
祇園祭が疫病だけでなく、こうした自然の猛威に対する人々の切実な祈りから生まれたとすれば、それは私が追う「古代の神々の謎」と強く結びついてきます。
「豊のくにあと」で日本の古代史と神々の変遷を辿る中で、ある仮説を抱いています。
それは、時の政治権力が特定の神々や信仰を「消し去ろう」としたにもかかわらず、大規模な自然災害(特に地震や疫病)が頻発するたびに、人々の根源的な信仰が呼び覚まされ、その神々が形を変えて再び表舞台に現れたのではないか、というものです。
今回、この仮説をさらに深める新たなキーワード、「地震の神」が登場しました。
地震を鎮める神、タケミカヅチの謎
日本神話に登場するタケミカヅチ(建御雷神、武甕槌神)は、武神として知られ、鹿島神宮の主祭神として広く信仰されています。
しかし、彼はもう一つの重要な側面を持っています。それは、地震を鎮める神としての役割です。
古来、日本では地震が、地下に棲む巨大なナマズが暴れることで起きると信じられてきました。
そして、タケミカヅチはそのナマズを要石(かなめいし)で抑え込み、地震を防ぐ力を持つとされています。
鹿島神宮には、その「要石」が今も祀られています。
(映画「すずめの戸締まり」で取り上げられていた「要石」です)
興味深いことに、日本の主要な神話書である『記紀』(古事記・日本書紀)には、タケミカヅチと地震を直接結びつける記述はありません。
にもかかわらず、彼が地震を鎮める神として広く信仰されてきたという事実は、「公式の歴史からは語られないが、民衆信仰や別の伝承の中で脈々と受け継がれてきた神の側面」の存在を示唆しています。
これは、「消された女神」瀬織津姫の足跡を追う中で見えてきた構造と、非常に類似しています。
藤原氏のルーツと「ナマズ」が繋ぐ糸
ここで、私たちのこれまでの探求で重要な役割を担ってきた藤原氏(中臣氏)が、再び登場します。
タケミカヅチを主祭神とする鹿島神宮は、藤原氏の氏神である春日大社と深い関係にあり、藤原氏の信仰基盤の一角を担っていました。
そして、私たちはこれまで、藤原氏(中臣氏)のルーツが、宇佐のシャーマンであった豊玉姫、そして荒ぶる神でありながら疫病除けの神でもあるスサノオ(牛頭天王)に繋がるのではないか、という仮説を立ててきました。
この仮説に、さらに情報が加わります。
伝承によっては豊玉姫の使いが「ナマズ」であるとされています。
この繋がりは、非常に示唆的です。
もし、地震の原因とされる「ナマズ」。
そしてそのナマズを抑え込むのがタケミカヅチであるならば、これは単なる偶然でしょうか?
- 地震を起こす存在(ナマズ:豊玉姫の使い)
- 地震を鎮める存在(タケミカヅチ/豊玉姫)
なお、鹿島信仰における大ナマズの話が広まったのは江戸時代といわれています。
スサノオとタケミカヅチ:消せない神々の証明
スサノオとタケミカヅチ。
両者は記紀神話において、共にイザナギの子であり、神々の系譜の中で近しい存在です。
また、タケミカヅチは、スサノオの子孫である大国主命に国譲りを迫る使者として、出雲へと赴きます。
スサノオは、時に荒々しい破壊神の側面を持ちながらも、疫病を退ける守護神としても広く信仰されてきました。
一方のタケミカヅチも、地震という根源的な脅威を鎮める武神です。
これら二柱の神は、いずれも極めて強力で、人々の生活に直接的な影響を与える力を持つ存在でした。
政治的な思惑や新たな信仰体系の導入があったとしても、彼らのような根源的な力を持つ神々を完全に歴史や人々の記憶から「消し去る」ことは不可能だったのではないでしょうか。
祇園祭が始まった背景に見られる大地の動乱と疫病の流行、そしてそれに呼応するかのように信仰されてきたスサノオやタケミカヅチのような神々。
彼らはまさに、大自然の猛威の前で、人々が切実に救いを求めた結果、消そうとしても消し去ることができなかった神々の証明であるように思えるのです。
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