神社の屋根や灯籠、古いお屋敷の瓦などでよく見かける「三つ巴紋(みつどもえもん)」。
くるりと巻いた3つの渦巻きが円を描く、不思議な形のこの紋章には、「右巻き」と「左巻き」の違いがあるのをご存知でしょうか。
右巻きと左巻き、どちらがどっち?
図にすると分かりやすいですが、
渦が時計回りに回っている → 右三つ巴
渦が反時計回りに回っている → 左三つ巴
と呼ばれます。
単なるデザインの違いではなく、それぞれに意味が込められているとされます。
右三つ巴=陽、左三つ巴=陰?
中世以降、特に陰陽道(おんみょうどう)の世界観では、
右三つ巴=陽・火・男性性
左三つ巴=陰・水・女性性
と分類されることがあります。
ただし、これは時代や地域によって解釈が異なり、必ずしも統一されたものではありません。
参考:佐藤勝明『神紋と家紋の由来事典』、および神社界の意匠研究
巴紋は「雲」の形でもある?
実はこの渦巻き、「巴(ともえ)」という名前で知られていますが、古くは「雲(くも)」をあらわしていたという説があります。
たとえば『紋章辞典』や伝統意匠の解説書では、
「巴紋は渦巻きや水の流れ、火炎、さらに雲などの自然現象を象徴する意匠である」
と解説されています
(※参考:高澤等『日本「家紋」総覧』)。
つまり、空を流れる雲や、空と地を結ぶ目に見えない“力のめぐり”の象徴としても理解されていたのです。
豊の国と「雲」の神さまたち
「豊のくにあと」では、三つ巴紋の調査を進めるなかで、「雲」とのつながりに注目してきました。
たとえば、金毘羅(こんぴら)様の主祭神・大国主命(おおくにぬしのみこと)は、「雲の神さま」とされることがあります。
また、日本神話には「豊雲野神(とよくものかみ)」という名の神さまも登場しますが、その存在はあまり語られていません。
雲は、山と海、天と地をつなぐ間に現れるもの。
三つ巴紋が「雲」をあらわすものだとすれば、それはまさに、この世とあの世、神と人をつなぐ象徴なのかもしれません。