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Googleマップで紐解く「木花咲耶姫」の謎:火と水を繋ぐ「木」の女神と隠された系譜

北部九州エリアの史跡巡りをして生じだ素朴な疑問を「謎」として追っています。

 

先日、「富士に隠された神々?『木』の系譜を辿る」という記事を書いて、これまで見つかっていたキーワードからまた新たに繋がりを示唆しているように感じられました。

 

今回、私が着目したのは、富士山の神として知られる木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)を祀る神社と、水の神・龍神として信仰される貴船神社の分布です。

これらの神社の位置を地図に落とし込んでいくと、ある相関性が見えてきました。

 

そして、その背後には、火と水、そして「木」とのつながりが見えてくるように思いました。

「木花咲耶姫」と「貴船神社」:分布図が示す相克と共存の可能性

私がGoogleマイマップで、木花咲耶姫を祀る神社と貴船神社の分布を登録していくと、興味深い傾向に気づきました。

拡大して同じエリアを比較してください。
三重県・愛知県のエリアを見ると分かりやすいと思います。

例えば、福岡県・大分県、それに三重県・山梨県・静岡県などの地域では、木花咲耶姫を祀る神社が多いエリアには貴船神社が少なく、その逆もまた同様に見えるのです。

 

これは、それぞれの神の信仰が異なる勢力圏、あるいは異なる系統の信仰によって広められた可能性を示唆しているのかもしれません。

 

  • 貴船神社は、水の交通路や木材の流通に関わる勢力(例えば紀氏や渡来系の技術者集団)によって広められた、水神・龍神信仰のネットワークを形成していたのかもしれません。
  • 一方、木花咲耶姫の信仰が東日本に比較的多く見られるのは、富士山という活火山を鎮めるという、火の脅威に対する切実な願いが背景にあったのかもしれません。
    鹿児島県の霧島神宮で木花咲耶姫が祀られています。
    火を鎮める水の女神としての信仰が、火山活動の活発な地域で特に重要視されたのではないでしょうか。

「木」が繋ぐ火と水:木花咲耶姫に秘められた多面性

木花咲耶姫は、富士山の噴火を鎮める「鎮火の神」として信仰される水の女神です。

そして、彼女の名前には「木」の文字が含まれています。「木花咲耶姫」。

 

「木」は、火の燃料となる一方で、大地に根を張り、水を吸い上げ、生命を育む存在でもあります。

つまり、「木」は「火」と「水」を繋ぎ、そのエネルギーを調和させる媒介としての役割を担っていたと解釈できるかもしれません。

 

木花咲耶姫の信仰をさらに深掘りしていくと、時には神社の境内に龍神の祠があったり、すぐそばに4世紀の古墳があったり、さらには渡来人と関係深い「妙見」_「みょうけん」と読む地名があることがわかりました。

 

【 木之花咲耶姫が祀られている神社 】

  • 浅間古墳 増川浅間神社
    東海地方で最大規模の前方後方墳(4世紀)がある。
    〒417-0815 静岡県富士市 増川西村624
  • 剗海神社
    龍宮洞穴がある神社。御祭神は木花咲耶姫と豊玉姫(瀬織津姫)
    〒401-0332 山梨県南都留郡富士河口湖町西湖2068
  • 向原小明見冨士浅間神社
    「明見」という地名は、かつて「妙見」と呼ばれていた可能性あり。
    別の地域で「明見」の由来が「妙見」だっという事実もある。(例:岡崎市明見町(旧額田郡))
    富士山がよく見える神社。
    地名の小明見は古くは「湖明見」(村名)と「水」も関連する。
    〒403-0018 山梨県富士吉田市向原1丁目21−11
  • 浅間神社(立石熊野神社内)
    熊野神社は安倍晴明が勧請したと伝わる歴史ある神社。
    〒124-0012 東京都葛飾区立石8丁目44−31

これらの情報は、木花咲耶姫信仰が、単独のものではなく、水神、龍神信仰、渡来系の要素、そして熊野信仰といった、様々な信仰と複合的に絡み合っていたことを示しているように思いました。

春日燈籠、そして「鹿」「月」「兎」の象徴が語るもの

さらに、木花咲耶姫を祀る神社を調べていく中で、私が以前福岡県のある古い神社で見た「春日燈籠」、それと同じような燈籠がある神社をいくつも発見しました(社名は春日神社ではなく)。

春日燈籠は、春日大社、ひいては藤原氏と深い繋がりを持つ象徴です。

福岡県内の春日燈籠
福岡県内で見つけた春日燈籠。鹿と雲と月が刻まれている

 

奈良の鹿といえば、藤原氏が氏神を祀るために創建した春日大社の鹿が浮かぶかと思います。

「鹿」は藤原氏にとって重要な関わりがあります。

 

そして、神社の住所には「八鹿(やつしか)」「鈴鹿(すずか)」など「鹿」の地名、それに神社に残る祭礼行事にも「鹿」が見られることが分かりました。

これらの地名は、春日信仰がこれらの地域にも深く浸透していたことを示唆しているのかもしれません。

「鹿」という言葉や地名も私が気になっているキーワードのひとつです。

  

また、多くの神社が川沿いに位置し、地名にも「水」を感じさせるものがあるという発見は、木花咲耶姫が「火を鎮める水の女神」であるという特性と強く結びつきます。

これまで私が調べてきた「水の女神」である瀬織津姫の信仰領域とも重なるものです。

【 木之花咲耶姫が祀られている神社 】

  • 浅間神社
    地名に「鹿」と「浅間」。
    〒667-0011 兵庫県養父市八鹿町浅間361−1
  • 加和良神社
    地名に「鹿」の字。春日灯籠が立ち並ぶ写真あり。
    〒510-0207 三重県鈴鹿市稲生塩屋2丁目22
  • 一宮神社
    地名に「月」の字。葛野川沿い。
    〒409-0626 山梨県大月市七保町瀬戸2106
  • 月讀神社(桜島)
    「月」の神社。桜島火山の神社。
    〒891-1419 鹿児島県鹿児島市桜島横山町1722−8
  • 黒瀧神社
    社名に「瀧」。櫛田川沿い。
    〒515-1615 三重県松阪市飯高町森129
  • 貴船神社
    初めて見た月と太陽の社紋。春日灯籠。
    〒264-0017 千葉県千葉市若葉区加曽利町963

神名に秘められた「鹿」:「鹿葦津姫大神」の示唆

そして今回、さらに気付いたことがありました。

 

木花咲耶姫の別名の一つに、「鹿葦津姫大神(カヤツヒメノオオカミ)」という名があることが分かったのです。

木花咲耶姫を祀るごく一部の神社で、実際にこの名が神名として記載されているケースが存在します。

 

この「鹿葦津姫大神」という神名に直接「鹿」の文字が含まれていることは、これまで地名や春日燈籠から推測してきた「鹿」と木花咲耶姫の繋がりが、神名レベルで明確に存在したことを示しています。

 

これは、木花咲耶姫が、藤原氏が深く関わった春日信仰の象徴である「鹿」と、古くから何らかの形で結びついていた、あるいは後世にその繋がりが強められた可能性を示している?

 

そして、この「鹿」の繋がりが、まさに「水の女神」である瀬織津姫の信仰領域とも重なることは、極めて興味深い点です。

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