【金毘羅様と隠された神々】大物主神・饒速日命・妙見信仰が繋ぐ日本の古代史

これまでの探求で、親しみ深い「こんぴらさん」が、実は「海の神様」というイメージだけでなく、「風と雲の神様」としての古くからの神格を持っていたことを知りました。

今回は、さらにその深奥に迫り、金毘羅宮の主たる御祭神である大物主神（おおものぬしのかみ）、そして日本の古代史において謎多き存在とされる饒速日命（にぎはやひのみこと）、さらには妙見信仰（みょうけんしんこう）との繋がりを追っていきたいと思います。

「こんぴらさん」の名で親しまれている金刀比羅宮（ことひらぐう）の御本宮は、香川県琴平山の山腹に鎮座しています。その主たる御祭神は、大物主神です。

金刀比羅宮の由緒には、次のように記されています。

この記述から、金刀比羅宮が古くから大物主神を祀る神社であり、その歴史は「神代よりの事にして、幾百万年」に及ぶと伝えられてきたことがわかります。

大物主神は、『古事記』では大国主神（おおくにぬしのかみ）の「幸魂奇魂（さきみたまくしみたま）」として登場し、国造りにおいて重要な役割を果たす神とされています。

また、奈良の三輪山（みわやま）の神としても知られ、蛇神（じゃしん）の性格を持つとも言われます。

そして、この大物主神が、日本の古代史において非常に重要な、ある神と同一視されるという説があります。

それが饒速日命（にぎはやひのみこと）です。

饒速日命は、『日本書紀』などに登場する神で、天磐船（あまのいわふね）に乗って空から大和（やまと）の地に降臨したとされています。この「空から降りてきた」という伝承から、彼は「空の神様」としての性格を持つと考えられています。

前回の記事で、金毘羅様が「風と雲の神様」であるという新たな側面を知りました。

もし金毘羅様（大物主神）が饒速日命と同一神であるとすれば、「風と雲」という空を司る存在であることと、「空の神」である饒速日命が繋がり、非常に納得のいく関係性が見えてきます。

饒速日命を語る上で、もう一つ重要なのが妙見信仰（みょうけんしんこう）との繋がりです。

饒速日命は、古代の有力豪族である物部氏（もののべし）の祖神（そしん）とされています。

そして、物部氏が深く信仰していたのが、妙見信仰です。

妙見信仰とは、北極星・北斗七星を神格化した「妙見菩薩（みょうけんぼさつ）」を本尊とする信仰で、国土を守護し、開運・長寿をもたらすとされます。

北極星は、常に空の中心に位置し、他の星々がその周りを回ることから、「宇宙の支配者」としての性格を持ちます。

空から降臨した饒速日命が、空の星を信仰する物部氏の祖神であるというのは、非常に理にかなった関係性と言えるでしょう。

つまり、金毘羅様（大物主神）＝饒速日命という説が正しいとすれば、金毘羅信仰の根底には、風と雲といった気象を司る神としての性格に加え、宇宙の根源たる星を信仰する妙見信仰、そして古代の物部氏の信仰が複雑に絡み合っていた可能性が見えてくるのです。

私たちが豊後高田市で発見した、馬城山伝乗寺の本体である「喜久山（きくやま）」。

その古称が「菊山」であったという事実も、この文脈で新たな意味を帯びてきます。

「菊」は、皇室の紋章としても知られますが、古代においては、物部氏など特定の氏族との繋がりも指摘されています。

また、妙見信仰においては、星辰（せいしん）信仰と深く結びつき、菊の文様が使用されることもあります。

豊後高田市内の雷鬼（いかずちおに）の岩屋古墳近くにあった海神社でも「菊」の跡が見られました。

この「菊」の意匠が、単なる装飾ではなく、金毘羅様や饒速日命、妙見信仰といった、より深遠な古代信仰の繋がりを示す手がかりである可能性も考えられるでしょう。

『古事記』や『日本書紀』といった正史には、特定の意図を持って記述が「整理」された部分があると言われています。

しかし、神社に残る御祭神の名前や伝承、そして社紋や地名といった「点」を拾い集め、繋がりを考察していくことで、歴史の空白とされてきた部分に光を当てることができるかもしれません。

大物主神と饒速日命の同一神説、そして妙見信仰との繋がりは、金毘羅信仰が単一の神格に留まらず、日本の古代において多様な信仰が融合し、変遷してきた証であるとも言えます。

私の個人的な謎を追った史跡巡りは専門家の研究とは異なりますが、実際に現地に足を運び、伝承や痕跡に触れることで、「生きた歴史」を感じさせてくれます。

金毘羅様が「風と雲の神様」としてのルーツを持っていたことや、象頭山と雲気神社の繋がりについては、こちらの記事で詳しく考察しています。

また、これまで私たちが探してきた「右三つ巴紋」や「瀬織津姫」に関する記事も、今回のテーマと深く関連しています。ぜひ併せてご覧ください。