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空海と「豊のくにあと」の謎:宗像に隠された「空」「海」「風」「火」の神々の系譜

豊の国から宗像へ、古代に響き合う二つの聖地

「豊のくにあと」で、私はこれまで数々の謎を追ってきました。

霊峰富士が「藤山」であった可能性、そしてその麓に眠る「消された女神」瀬織津姫の痕跡

そして、木花咲耶姫の名に秘められた「木」の秘密

これらの糸が、今、日本の古代史を代表する偉大な僧、空海へと繋がっていくように感じられます。

 

福岡県宗像市 宗像大社
福岡県宗像市 宗像大社

 

私の史跡巡りの始まりの地、福岡県宗像市の宗像大社。

世界遺産にも登録されたこの聖地は、大分県宇佐市と古くから深い繋がりを持っていたことを、私自身が「豊のくにあと」で最初の頃に投稿した記事で示唆していました。

 

宇佐市 高家神社
宇佐市 高家神社

 

大分県宇佐市の高家神社(たけいじんじゃ)には、西暦940年頃、宗像から人々が移り住み、水の女神の信仰を持ち込んだという伝承が残されています。

また、神社の近くには、現在でも「宗像」という地名が残っているのです。

 

この二つの地が、歴史のかなり早い段階から交流し、信仰の糸で結ばれていたことは、この地域の古代史を読み解く上で非常に重要な前提となるでしょう。

 

そして今、この宗像の地が、空海という存在、そして私がこれまで追い求めてきた「空」「海」「風」「火」という、すべてのキーワードが凝縮されている場所として見えてきたのです。

これは、果たして単なる偶然なのでしょうか。

宗像大社に秘められた「水」と「木」の繋がり

宗像大社は、古くから「海の道」を守る神として、航海の安全を司ってきました。

その歴史は、一時荒廃を極めたこともあったようですが、出光佐三氏の私財投下によって再興されたという話も残っています。

 

興味深いのは、宗像神社に伝えられた古文書、鎌倉時代成立とされる『宗像大菩薩御縁起』に、「貴船大明神」が大宮司館に安置されていると記されていたことです。

貴船大明神は、京都の貴船神社がかつて「木舟神社」と呼ばれた可能性が指摘されるように、水神、龍神、そして「木」の要素を持つ神と推測されます。

宗像大社が海の守護神である宗像三女神を祀る中で、貴船大明神との繋がりがあったことは、宗像神信仰が持つ「水」と「海」の側面が、より根源的な龍神信仰や、「木」の系譜と深く結びついていた可能性を示唆しているのかもしれません。

鎮国寺と空海:天地を繋ぐ力の結集

宗像大社のすぐ近くに位置する神宮寺、鎮国寺

ここは、まさに空海と非常に縁の深い寺として知られています。

鎮国寺の公式ホームページに残る伝承からは、これまで追い求めてきたキーワードが次々と浮かび上がってきます。

 

  • 「空」と「海」を体現する名前: 空海自身の名前が「空」と「海」で構成されていることは、彼の存在が天地、宇宙の根源的な要素と結びついていることを示唆しているように思えます。
  • 「風」と「海(水)」の制覇: 遣唐使船で入唐の際、大暴風雨に遭遇した空海が、不動明王の示現によって「浪間に現れた利剣で波を左右に切り払い」、無事渡唐できたという逸話は、彼が「風」と「海(水)」の荒ぶる力を鎮め、制する力を持っていたことを象徴しているのかもしれません。
  • 「火」の継承: 危難を救った不動明王の縁から、鎮国寺では毎年「柴灯護摩供(火渡り)」が営まれます。
    これは、密教において重要な「火」の力、そして不動明王が持つ降魔、調伏の力を現代に伝えるものと推測できます。
  • 「龍」の存在: 鎮国寺の奥の院には、八大龍王が祀られています。
    これは、空海が密教において重要な護法善神である龍神、つまり「水」と「雨」を司る存在と深く結びついていたことを示唆しているのではないでしょうか。

空海がこの地を「鎮護国家の根本道場たるべき霊地」と定めたというお告げは、この宗像の地が、古代から続く特別な力、そして「空」「海」「風」「火」といった根源的な自然の力を司る神々の息吹が宿る場所であることを、空海自身が見抜き、仏教の教えと結びつけた結果なのかもしれません。

古代神話との交錯:空海は神々の末裔か?

これらの繋がりを考えると、ある大胆な推測が浮かんできます。

空海の名前が示す「空」と「海」。彼の修行の際に「星を飲み込み、悟りを開き、その時目に見えたものが空と海だった」という伝承は、もしかしたら、彼が「空の神」饒速日命(にぎはやひのみこと)と、「海の神」あるいは「水の女神」である豊玉姫(とよたまひめ)の系譜、あるいは彼らが象徴する古代の信仰を深く継承する者であったことを示唆しているのかもしれません。

 

饒速日命は天磐船に乗って降臨したとされる星辰信仰と結びつく神。

豊玉姫は海神の娘であり、水と龍宮に深く関わる女神。

もし空海が、これらの古代神の系譜に連なる存在であったとすれば、彼の偉大な業績や神秘的な伝承の背景には、記紀神話では語られない、より深遠な信仰の繋がりがあったのかもしれません。

 

宗像の地で、空海が「空」「海」「風」「火」といった要素を統合したかのように振る舞ったことは、単なる偶然ではなく、日本の古代信仰と密教、そして国家形成の過程が、いかに複雑に、そして深遠なレベルで絡み合っていたかを示す、一つの手がかりであるように思えます。

おわりに

宇佐市と宗像市の古くからの繋がり。

宗像大社に秘められた貴船大明神との関係。

そして、鎮国寺に凝縮された空海と「空」「海」「風」「火」の要素。

謎はつながっていたのかもしれません。

 

スタート地点から見直すことができたら、きっと色々なことに気づけるのではないかと思っています。

これまでの謎について

これまで探してきた「右三つ巴紋」や「瀬織津姫」に関する記事も、今回のテーマと深く関連しています。ぜひ併せてご覧ください。

 

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