歴史の面白さは、遠い過去の出来事が、今を生きる私たちと一本の線でつながる瞬間にあります。
私の歴史の謎めぐりは、まさにその「つながり」を追い求めてです。
今回、大分県国東半島にある六郷満山(ろくごうまんざん)の初期信仰に関する公式情報で、また新たなつながりを 知ることができました。
Webサイト「日本遺産 鬼が仏になった里『くにさき』」から得られた情報によれば、初期の六郷満山は、「薬師如来を祀るための霊場であった」とされています。
この事実はこれまでの考察を、また裏付けてくれました。
宇佐宮弥勒寺が「薬師如来」を祀った意味
この重要な信仰のルーツには、宇佐神宮の影が見え隠れします。
六郷満山のはじまりと薬師如来は大きく関係しているといわれています。一般に六郷満山のはじまりと言えば、養老2(718)年に八幡神の応現である仁聞菩薩が、28の谷にそれぞれ寺院を開いたと伝わっています。しかし、少し史料を紐解くと、六郷満山のはじまりには、宇佐宮弥勒寺の僧侶が関係していることが分かります。
宇佐神宮の『託宣集』によれば、奈良時代から平安時代前期にかけて、宇佐宮弥勒寺の僧侶である法蓮・華厳・覚満・躰能が、それぞれ虚空蔵寺(宇佐市山本)に虚空蔵菩薩、法鏡寺(宇佐市法鏡寺)に如意輪観音、薬王寺(豊後高田市森)に薬王菩薩、六郷山(国東半島)に薬師如来を祀ったとされていいます。ここから初期の六郷満山は薬師如来を祀るための霊場であったとされています。
薬師如来は六郷満山でも古いとされる本山寺院を中心に信仰され、鎌倉時代には8ヶ寺(智恩寺、後山金剛寺、高山寺、間戸寺、無動寺、岩戸寺、神宮寺、両子寺)で薬師如来は本尊とされていました。
なぜ、この地で「薬師如来」がこれほど重視されたのでしょうか?
これまでの探求では、熊野磨崖仏の大日如来像が元々は薬師如来であった可能性、そして、疫病除けの神である牛頭天王(スサノオノミコトと習合)の本地仏が薬師如来であるという繋がりは見えていました。
このことは、「薬師如来信仰」が、スサノオを核とする古層の信仰体系と深く結びついていたことを強く示唆しています。

「火」と「水」の一対:薬師如来(徐福)と八大龍王(瀬織津姫)の符合
この宇佐神宮を介した薬師如来信仰の広がりは、私が追っている「男神と女神の一対」というキーワードと見事に符合します。
「国東半島の薬師如来=徐福(男性性)」という仮説を立てています。
徐福は、製鉄技術など「火」を扱う技術を日本にもたらしたとされる渡来人であり、熊野本宮大社の御祭神である天火明命(あめのほあかりのみこと)=「火明」とも重なる可能性を指摘してきました。
また、薬師如来は、火を使った儀式や灯火と結びつき、人々の健康や幸福を願う仏として信仰されており、薬師如来は病を癒す仏であり、その智慧と慈悲は、徐福がもたらしたとされる先進技術や知識による「再生」の象徴とも解釈できます。
一方で、国東半島には「身濯(みそそぎ)神社」や「六所権現」の御祭神として八大龍王(水神)が祀られ、それが瀬織津姫(豊玉姫)と繋がるという考察も進めてきました。
瀬織津姫は、大祓詞(おおはらえのことば)に登場する祓戸(はらえど)の神であり、水によって穢れを祓い清める女性神です。
この構図は、国東半島において、「火」の象徴としての薬師如来(徐福)と、「水」の象徴としての八大龍王(瀬織津姫・豊玉姫)という、陰陽一対の神々が信仰の核となっていた可能性を感じます。
これは、「火と水による浄化と再生」という、より根源的な古代の信仰体系がこの地に根付いていたことを物語るのではないでしょうか。
「消された歴史」と「上書きされた信仰」
宇佐宮弥勒寺が薬師如来を祀り、それが六郷満山の初期信仰の中心であったという事実は、日本の古代信仰が、後の時代にいかに複雑に再編され、「上書き」されていったかを示唆します。
熊野磨崖仏の大日如来が元は薬師如来であったという経緯も、この「上書き」の一端だったのかもしれません。
薬師如来を核とする信仰が、時代とともに他の仏や神に見立てられたり、その本来の意味が曖昧にされたりしていった可能性は十分に考えられます。
おわりに
今回、薬師如来について深堀りして調べたところ、偶然見つけたオフィシャルな情報。
自分が知らないことだらけで、見つけられなかっただけで、まだまだ謎がつながる情報が、オフィシャルな情報にあるのではと思います。
今まで自分が追ってきたキーワードを深堀りしていけば、また新たな発見があるかもしれません。
さらに深堀りする
熊野磨崖仏の大日如来像は、薬師如来だった?
宇佐神宮に隠された、原初の一対の「男神と女神」について考えてみました。
水と祓いの要素を持つスサノオ。全国に残る神事から、そのルーツを探ります。
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