ある日、古墳群の近くにある神社を訪れたとき、境内に古い石灯籠を見つけました。
そこに刻まれていたのは「鹿」「雲」「月」──どこかで見たような意匠でした。
帰宅後に調べてみると、それは奈良・春日大社ゆかりの「春日灯籠」の特徴と酷似していたのです。
さらに社殿周辺には、「鯱」や「右三つ巴紋」といった、藤原氏や祓の神・瀬織津姫との関連を想起させる痕跡も。
専門家ではないながら、現地の観察と資料から浮かび上がってきた“点と点のつながり”を、ここにまとめておこうと思います。
現地で見つけた三つの手がかり
1. 二つの鳥居と異なる年代
神社の参道には二基の鳥居がありました。
一つ目の鳥居には比較的新しい扁額がかけられており、
社殿近くの二つ目の鳥居には、江戸時代の年号が刻まれているにもかかわらず扁額がありませんでした。
この「額の有無のちぐはぐさ」が妙に気になりました。
2. 拝殿下の「鯱」と屋根瓦
拝殿の床下には、雄雌一対に見える「鯱（しゃちほこ）」と古い屋根瓦が置かれていました。
鯱といえば城にあるものですが、神社ではあまり見かけません。
かつて本殿の屋根にあったものが、後年ここに移されたのではと推測しました。
鯱は頭が龍または虎、体が魚とされるものです。
一対の龍といえば、貴船神社の御祭神である高龗神と闇龗神が浮かびました。
3.六角の石灯籠と「春日」の意匠
境内の灯籠には、「鹿・雲・月」の彫刻。
これは奈良が本拠地である春日大社の「春日灯籠」の特徴であり、春日大社は藤原氏の氏神を祀る神社です。
なぜこの意匠の灯籠が、この神社にあるのか。
この神社は春日神社ではありませんでした。
この時点で「春日」「祓」「藤原氏」というキーワードがつながり始めました。
祓戸の神・瀬織津姫と春日信仰
春日灯籠は「祓戸形（はらえどがた）」とも呼ばれているという情報を見つけました。
「祓戸の神」といえば謎多き女神・瀬織津姫。
大祓詞では、四柱の祓戸神の筆頭として名が挙げられます。
瀬織津姫は闇龗神であり、龍神という説があります。
春日大社においても、能の曲に「春日龍神」という演目があるほど、龍神との縁は深いものがあります。
この福岡県の僻地の神社で見た春日灯籠と、瀬織津姫へのつながりは、偶然とは思えない符合でした。
大祓詞（おおはらへのことば）の中で、四柱の祓戸の大神として一番最初に出てくるのが瀬織津姫です。大祓詞は、疫病が大流行したり、天変地異が起きた時、この祝詞をあげ祓い清め（浄化）させ、おさめようとするものであり、鎌倉時代から続いているようです。
風土記や偽書とされた『ホツマツタエ』等には載っていますが、正式な歴史の中には何一つ出て来ない謎多き女神 瀬織津姫。
瀬織津姫 - 草場一壽公式サイトから引用
右三つ巴紋と、藤原氏系譜の宇都宮氏
最近、別の神社で「右三つ巴紋」が刻まれた石柱を見つけていました。
これは鎌倉時代から豊前の地を治めた宇都宮氏ゆかりの神社です。
宇都宮氏のルーツもまた藤原氏。
宇都宮家に伝わる秘儀「艾蓬の射」は、邪気を祓い戦勝を祈願する、まさに“祓”の術法。
祓・春日・藤原──ここでも三つのキーワードが重なります。
さらには藤原氏の家紋が藤であること。
藤のツルといえば右回りなのです。
鶴姫伝説と「蛇神」への変化
宇都宮鎮房の娘・鶴姫は、父を謀殺され、やがて磔にされ命を落としました。
その後、彼女の塚からは大蛇が現れ、当時の中条城主であった小笠原長円に憑依し、黒田長政父子に謀殺された祟として認められました。
その後、大蛇は「宇賀大明神」として祀られたという伝承が残ります。
この大蛇は「兎の耳」「ナマズのひげ」「金の斑点」といった異様な特徴を持ち、どこか“龍神”や“月信仰”を連想させる意匠でもありました。
鶴姫の塚より蛇が這い出てきたという。
蛇の長さは五尺余り。つまり1.5mほどの長さだろう。かなり大きい蛇だ。
さらに、謎の蛇はとんでもない特徴を持っていた。
蛇だが、亀のような足がある。
蛇だが、牙がある。
蛇だが、ウサギのような耳がある。
蛇だが、ナマズのようなひげがある。
そして、両眼に金の斑点のようなものがある。
和樂web 美の国ニッポンをもっと知る！｜侍女と共に磔にされた姫──宇都宮氏一族「もう1つの無念」を追い、福岡・宇賀貴船神社へから引用
月、龍、ナマズ、白兎──宇佐族の記憶
鶴姫である大蛇が祀られる宇賀貴舩宮は貴船神社系統で、私が見てきた右三つ巴紋を持つ神社の中にも貴船神社がありました。
貴船神社はその多くが龗神といって龍神を祀っていますし、蛇神と龍神は古来より近しい存在とされてきました。
「白ナマズ」については、月を祭祀し、シャーマンとして民から絶大な支持を得てい宇佐の女王、豊玉姫の使いであったといわれます。
宇佐の古い豪族であった「宇佐氏」は「菟狭族（うさぞく）」とも呼ばれ、兎（月）の信仰とも深い関わりからその名前になったそうです。
春日大社と藤原氏の深いつながり
春日大社は藤原氏の氏神であり、主祭神の武甕槌命（たけみかづちのみこと）は藤原氏の遠祖とされています。
この神は、「建御雷神（たけみかづちのかみ）」とも書かれ、雷・剣・勝利の神として知られています。
この時訪れた神社も、雷が関係する神社でした。
偶然ではない？
こうして振り返ると、いくつもの要素が偶然とは思えないかたちで重なっているように感じます。
まだ分からないことも多いですが、今の目線で、もう一度巡ってきた場所を見直してみたいと思いました。
知らないものは、見えないもの。
今なら、かつて見えなかったものが、少しは見えてくるかもしれません。